少し寒い日。雪が降ったら嬉しいなと思える日。
「今日は早く帰ってきたらいいな」
水炊きの用意をし、あたしはみんなの帰りを待っていた。
冬になり、あの学園祭からもうすぐで三ヶ月になる。忘れてる人も結構多い。
時々は変な目で見られるけど、気にするほどのことじゃなくなった。
「鶏のぶつ切り、すっごく安かったもんね」
鍋の材料の確認をして、あたしは一人でワクワクしながら帰りを待ってた。
今日、お兄ちゃんは家に戻ってる。でも夕食はこっちで食べるって言ってた。
「すこし冷えてきたかな。ヒーター点けた方がいいのかな」
一人で部屋の中を右往左往。なんせ落ち着かない。だって今日は嬉しい日だから。
「でも変かな。自分の誕生日に本人が浮かれてるなんて」
そういうことすらわからない。みんなは自分の誕生日ってワクワクしたりするのかな。
今まで誕生日を祝ってもらったことがない。だから、あたしにとって大事な人たちと過ごす、初めての誕生日。
「仕方ないって、許してくれるよね」
珍しく、自分を許してあげたくなった。嬉しい。一人じゃない誕生日が。
4時になり、5時を過ぎても帰ってこない。用事でも入ったのかなと、メールを打つ。
『予定に変更あったら教えてね』
夕食に何を用意してるか内緒だから、それだけをお兄ちゃんへと送信する。
1時間経過しても、返信がない。もう6時になるところだ。
「どうしたのかな」
携帯を手に、番号を探す。
「……あ、もしもし。シン?お兄ちゃんがまだ帰ってこないの」
シンにそう聞けば、「あのねマナ」といつものシンじゃない声がする。
「予定変わったのかな。連絡欲しいなって、さっきお兄ちゃんにメールしておいたんだけど」
そう話せば、「知ってる」とシンがいう。
「そっか。返信がないから、もうすぐ帰ってくるのかなって思ってて」
あたしだけが浮かれてた。電話の向こうのシンが、いつもとは違う様子になってたことに気づけないほどに。
「寒いから、今日。あったかい夕食用意しておくね。早く帰ってきてねって、お兄ちゃんに話してくれる?」
浮かれたまま、気持ちのままにシンに話しかけた時、シンがこういった。
「無理よ」って。
聞き間違いかなって思って、「え?今、なんて?」と聞き返す。
「……帰れないの」
やや間を置いて、シンが呟く。

