「やっ、笑わないで。凌平さんってば」

「笑わずにいられるはずないでしょ」

もしかして学園祭の後の心さんと凌平さんの気づいてないの?とかも、あたしのコレだったってこと?

「恥ずかしいとかって問題じゃないじゃない」

凌平さんから体を離し、半身をよじる。このまま抱きついてなんかいられないよ。

「はーっ、どれだけ自爆したら気づくのかって思ってたけど、かなり鈍いね」

さっきまでの空気はどこへ行ったのか。今はとにかく笑われてるだけ。

「ありがと、今日もいいタイミングで自爆してくれて」

「そんなつもりないです」

顔が見れない。恥ずかしいどこじゃない。

(穴があったら入りたいって、こういう時に使っていいよね)

そんなことを考えていた。すると、右側に体が引っ張られた。

「いつまでも離れてないでよ。寂しがり屋なんだから、俺」

横から抱きついてくる。恥ずかしい気持ちが残ってはいても、このぬくもりだけは許せてしまう。

「しょうがないですね」

こうやって許して好きにさせちゃう時点で、あたしは凌平さんを特別に扱ってるんだよね。

「ふふ。お母さんって呼んでもいい?」

「嫌です」

「ね、お母さん。お腹すいたんだけど」

「お母さんじゃないです。それにここじゃ、何も作れませんから」

そんなやり取りをしていると、ふと見た凌平さんの顔が明るくてホッとした。

「大好き、お母さん」

そういいながら、あたしの太ももに寝転がって、まるで猫みたい。

「……なに、この光景」

いつからいたのか、呆れた顔で心さんがドアのところに立ってた。

「二人から連絡あったから知らせようと思ったら、よくわからないことしてるし」

「え、いや別に変なことは何も。ね?」

「え、してないんだっけ?」

「してない!してない!」

「そう、マナに手出ししたのね」

「されてないもん。本当だから」

せいぜい抱き合ったくらい。それを手出しされたとは言わないもの。

「……まあ、いいわ。とにかく伝言受けたから伝えるわね」

心さんがいすを引き、ベッドのそばに腰かけた。そして少し緊張した面持ちで話し始めた。

 産みたくない。ママはその言葉を崩さなかった。中絶したいって。

「でもナオトのお父さんも頑固だし、どういう形でも命だからって譲らないんだって」

あたしもその場にいたら、何が何でも譲らないだろうな。産んでほしいって。

「それで、産むのは了解したけど、育てるのはもう嫌だって」

育てるのは嫌、か。そっか。