「病状自体は大したことはない。ただ、うるさいのがいるからな」
「そう」
いつもの凌平さんしか知らないだけに、とても不思議に見える。
「ったく。久々に来たと思えば、面倒なことさせやがって」
「おふくろが、ここの病院はこの界隈で一番信頼が置ける病院だって自慢してたから」
お母さん?凌平さんのお母さんのこと知ってるの?この先生。
「そりゃどうも。とにかく大人しくしてろよ、お前は」
「わかってるよ……颯太兄さん」
さすがにその会話で察することが出来た。ここなんだ。凌平さんのお父さんの病院って。
「それじゃな」
ペタペタとサンダルを鳴らしながら、ドアから出て行こうとする。
「お大事に」とだけいい、空気をめいっぱい重くしていなくなった。
心さんが飲み物を買ってくるわといい、出て行った。凌平さんと二人きりにしてくれたみたい。
「マナ」
「は、はい」
思わず身構えてしまうと、「やだなぁ」と苦笑いをする。
「ね、少しの間だけ、抱きしめてもいい?」
それは多分初めてのこと。凌平さんが甘えたがっている。だって、今にも泣きそうな表情をしてるから。
「うん」
すこし躊躇った。抱きしめてあげたい気持ちと恥ずかしさとが交錯した。
「どうぞ」
俯きがちにしつつも、両手を広げた。腕の傷口がすこし突っ張って痛むけど、今は我慢しよう。
「ごめんね。甘えて」
するりと腕の間に入り込み、あたしをソッと抱きしめた。抱きしめてもいい?と凌平さんは言った。
「……マナ」
勘のいい凌平さん。気づいたよね、多分。
抱きしめてほしいんだって感じたの。抱きしめたいんじゃない。抱きしめてほしいはずだよって。
左手で、凌平さんのふわふわした髪を撫でる。
小さな声で照れ隠しのように「もう」と呟く声。
それでもあたしは撫でる手を止める気は起きなかった。やめちゃダメだって知ってた。
いつもはあたしの胸の奥の重りを軽くしてくれる凌平さん。けど今日はあたしが軽くしてあげたい。
「……年下のくせに、そういうとこがたまんないよ」
抱きしめる力を強め、あたしをもっと近づける。
「マナって母性の塊だと思うな」
なんて、意味不明なことを言い出すし。
「そんなことないですよ」
そう返せば、「ほら、なんか変に余裕あるとこみせてるじゃない」と拗ねた声。
「余裕なんかないですってば」
そう。余裕なんかどこにもない。こうやってるのも、かなりドキドキしてるもん。

