目を閉じればあの頃がつい最近のことに思える。
独りの時間が長かった。パパやママがいた時も、ずっと寂しくて仕方がなかった。
自分がしていることがいいことなのか悪いことなのか、何もかも手探りの毎日だった。
だから今とても新鮮。いいことはいいと言ってくれる人がいて、ちゃんと叱ってくれる人もいる。
上手く甘えられないことも察してくれる。わからないことには、ほんのすこしだけ手を差し出してくれる。
ちゃんと自分で考える隙も残しつつ、甘やかしすぎない距離。
家族に、友達に……好きな人に。そうして育てられているようで、幸せを感じる。
自分で自分を育てている感覚は、真っ暗な場所に一人で立ち竦んでいるようで嫌だった。
どっちに向かえばいいのか先が見えないことばかりだった。
ママはあたしに繰り返すって言った。ママが繰り返してしまったように。
「繰り返すんだろうか、やっぱり」
胸の奥、迷いが言葉になって洩れた。
沈黙の後、最初に口を開いたのは「さあね」と口にした凌平さん。
「だってさ、マナの周りにあるものがマナの母親と一緒かったら違うじゃん」
「確かにそうだけど」
ママはあたしがどういう環境下でも繰り返すって思ってる、きっと。
「マナがさ、自分の母親と同じように子供が出来て、産んでみて。それからだっていいと思うけど。繰り返すのかどうか、試すのは」
試すという言葉に眉間にしわを寄せる。
「試すって言っても、子供に対して何らかの実感をするって意味じゃないから。というかね、マナ」
そう言ってから、あたしの耳元に顔を近づけて囁いた。
「マナが繰り返しそうになったら、俺が止めるよ。だからさ」
「だから?」
思わず聞き返すと、唇が触れるほどにもっと近づいてきて。
「俺と結婚しちゃえば?っていっても、俺、手出しできないけどね」
自嘲的な言葉を絡めて、さりげなくすごいことを囁いた。
「……今、なんて」
頭の中で整理しなきゃと思うのに、言われたことが容易に映像になっちゃって整理にもならない。
「凌平、マナに何言った」
お兄ちゃんがムッとした顔つきで、凌平さんに問いただしても、
「別に。思ったこと言っただけだしね、ね?マナ」
あたしは返事をすることも出来ずに、真っ赤になって俯くだけ。
「いいなぁ。あたしも言ってほしいかも」
心さんは聞いてたみたいで、あたしをみてからかうように微笑む。

