自然と首に手が行ってしまう。
ママのあの声。手の感触。
もう嫌だ、あんなのは二度と味わいたくない。
学校に向かえばいいだけなのに、足が動かない。
じんわりと張りつくような汗がにじんでくる。
かばんを抱きしめた格好のあたしの手に、伊東さんの手が触れた。
レジ袋を腕に通し、「また来るよ」とだけ言い、車に乗って去って行った。
ジュースとお弁当。それと、菓子パン。
レジ袋を抱きしめ、呟いた。
「ごめんなさい」
食べ物を捨てるという罪悪感。それは伊東さんの気持ちも捨てるということ。
それでもママに消される恐怖感の方が勝ってた。
コンビニのゴミ箱に捨てると、レジ袋の先が見えた。
チクチク痛む胸と頭。
何も買わずに学校へと足を向けた。
久しぶりの授業は眠たいだけだった。
ウトウトしながら思った。
生きたいという執着心は、時々誰かを傷つけてしまうのかななんて。
そうしてまた過ごす数日。
その間、伊東さんは毎朝学校の近くのコンビニ前で待ってる。
「おはよう。今日はいい天気だね」
他愛ない挨拶。それすら、慣れないこと。
それを思えば、あたしとママはどんな親子だったんだろうって疑問に思う。
横目で見つつ、通り過ぎる。
「お弁当。手作りじゃなくて申し訳ないけどさ」
追いかけてくる靴音。逃げるようにスピードを上げる。
先生に、昨日聞かれた。一体誰で、何をしてるんだって。
ママが離婚したことは届け出てあっても、再婚したことは知らされていない。
だから言えない、新しい父ですだなんて。
後ろに腕が引っ張られた。
「マナちゃん!ちゃんと食べなきゃダメだよ」
その声にあたしも、今いえる精いっぱいの言葉を返す。
「もらっても食べてないから!」
嘘は言ってない。
「そんなに青白い顔してて、ちゃんと食べてないんだろう?」
レジ袋を手に握らせようとしたのがわかった瞬間、腕を大きく振った。
地面に落ちたレジ袋。
それを見つめたままのあたしにもう一度レジ袋を握らせて、伊東さんはこういった。
「また来るからね」
何てことない一言なのに、今は一番言わないでほしかった。

