「うん。あたしのこと止めないんだなって思ったら、なんだかおかしくって」
「だって、こうと決めたら止めないだろ?どうせ」
ほらね。頑固だってわかってるもん。
「だから笑っちゃったの。あははは」
いい感じに体の緊張がほぐれてきた。ちゃんと読めそうだ。
「笑うなよ。こっちは気が気じゃないのが本音なんだから」
そういいつつも、やっぱり止めようとはしない。うん。本当に幸せだな、あたし。
そんなことを考えながら、他の発表者の発表をぼんやりと聞いていた。
「マナ」
お兄ちゃんが不意にあたしの前にしゃがみこんだ。
「なぁに、お兄ちゃん」
すこしだけ前かがみになってお兄ちゃんと目線を合わせると、お兄ちゃんが微笑んだ。
「やっぱりお前が妹でよかったって思っただけだ」
いいながらいいこいいこしてくれる。ずっとあたしと目を合わせてくれなかったお兄ちゃん。
「ほんと?」
聞き返せば、ただ撫でる手を止めないだけで何も言わない。
その手が心地いい。……のに、また始まるわけで。
「ナオト。俺がマナに触ってんだから、撫でなくていいって」
「あぁ?俺の妹にいつ触れようが、俺の勝手だ。お前こそマナになれなれしくしてんな」
「っとに。くだらないわね、この二人」
あたたかいってこういうのかな。心の中がほわっと包まれてるような気持ちになる。
その感覚を喜ぶ自分がいる反対で、ママにはこういう場所がないのかなって切なくなった。
去り際に大事にされてればって言ってたっけ。ママは大事にされてないって思ってるってこと?
(やっぱりあたしの気持ちだけじゃ、ママを満たすことはできないの?)
ママが求めているものと、周りがママに向けている愛情。それの質と量が合ってないってことだよね。
「また難しい顔になってる。……誰かさんのこと考えてるだろ」
凌平さんが両頬を引っ張る。
「いふぁい」
結構思いきり引っ張るんだもん。
「あはは。よく伸びるから、マナのほっぺた」
凌平さんがそういうと、心さんまでもが「ほんとね」とかいいつつ引っ張るし。
「やめてってば」
二人の手を弾き、頬をさする。本当に痛いんだもん。……もう。
「俺もやったらダメなんだよな?」
お兄ちゃんまでもが触ろうとしてるし。
「ダ・メ!」
頬を手のひらで隠して、口を尖らせた。
(ママ……。ママのそばにいるあの男の人は、ママが欲しいものをくれるの?)
楽しい時間が流れれば流れるだけ、ママのことを思い出してしまう。

