気づいたことに、思わずクスッと笑ってしまった。

「何笑ってんのよ、失礼ね」

怒ってる口調なのに、そのまま頬にキスをくれる。

「うん、失礼でいいもん」

あたしも同じように頬にキスを送り返した。ギュッと抱き合ってみて、感じたことがある。

「ホント、血なんかくそったれだね」

血のつながりなんかよりも、もっと深いものがある。心がつながっていればいい。

その言葉を口にした時、ママとの事がすこしだけ楽になった。

血のつながりのあるママを忘れることは出来ない。愛さないわけにはいかない。

ママに縋って生きてきたから、余計にいなくなったら不安になった部分もあった。

だけど、依存するような生き方はダメになるって。

(今のママは、甘える場所を求めて彷徨ってる気がしたもの)

依存するんじゃなく、別な甘え方がある。きっと。寄りかかるだけじゃない生き方が。

「腕の方、どう?」

言われてから思い出した。

「あはは。ちょっと痛いかも」

「呑気なこと言ってんじゃないわよ」

こうやって叱られるのが気持ちいい関係。あたしたちは、こういう友達なんだ。

「痛み止め飲む?確かこっちのポケットに」

心さんのポケットにはいろんなものが入ってるんだと思ったら、笑いを堪えることが出来なくなった。

「あはははは。便利グッズ屋さんだ、心さんて」

心さんの発表でざわつく体育館で、あたしは大笑いしてた。

「っとに、もう。あ、あった。飲み物はさすがにポケットにはないしね」

心さんがそういうと、背後からお兄ちゃんが濡らしたハンカチと一緒にペットボトルを差し出した。

「さすがね、ナオト」

ウインクをしてみせてから、あたしの口に薬を放り込む。

「発表するんでしょ?」

薬を飲み込み、そのまま数回頷いた。

「もうすこしで薬も効いてくるはず。発表前にはもっと楽になってるから」

「うん」

汗がじんわりおでこから出てくる感覚が気持ち悪い。

「ふう」

押し出すように息を吐くと、凌平さんが髪を梳いてくれる。

「あと少しだろうから、ね」

読むのをやめろとは言わずにいてくれる。あたしを頑固だって言ってたもの。やめないって分かってるんだよね。

「ふふっ」

思わず笑いがこぼれた。腕からの痛みが、全身に嫌な感覚を与えているっていうのに。

「な、なに?どうかしたの?」

このタイミングで笑ったもんだから、凌平さんが驚いてる。