「自分のささいなことで、家族は簡単にバラバラになれる。心が繋がってるなんて、絶対じゃないって思ったの」

胸が痛んだ。心さんがそんなことを何年も思いながら過ごしてきたのかと思うと、自分のことじゃないのに涙が溢れた。

「こんな特殊な私のために、親戚に向かって怒りを露わにしてくれた唯一の人。こんなこと、人間にすることじゃないって」

ホーッと大きく息を吐き「それって、とても幸せなことだって思った」と続けた。

「半ば諦めていたの。人としても認めてもらえないんだって。血のつながりからも逃れられないんだって思い始めてたし」

お兄ちゃんとのどんな始まり方かはわからない。どうやって深くなったのかだってわかり得ない。

だけど、今お兄ちゃんは心さんにとって、とても大事な存在なんだということだけはわかる。

「でもね」

そういい、今度はなぜかあたしの方に視線を向けた。思わず泣きながら、人差指で自分を示してみる。

コクンと心さんが頷き、また正面を向く。

「でも、違ったの。血なんかくそったれだわ」

そういった時、すごく楽しげで驚いてしまった。

「好きなものは好き。人には個性ってものがある。認められないからって、自分の枠にはめるような人間は、あたしは二度とごめんよ」

そうして、両手を手のひらを上にして胸の高さで止める。じーっとみながら、微笑んだ。

「思ったことがあるの。というか、気づいたの。自分という個性を認めて手をつないでくれる人だけがいればいいって」

すごく明るい顔つきで、さっきよりも声を大きくして話す心さん。

「私は、小野塚心(しん)という男の子。だけど、心だけは女の子のままで。私はこの先、自分へと繋がる絆だけ信じて生きていくわ。男でもなく女の子でもなく。小野塚心として、歩いていくだけ。……以上、発表おしまい」

あははと笑いながら、壇上を下りてきた。

そしてお兄ちゃんじゃなく、最初にあたしの方に向かってくる。

「……嫌いになった?」

珍しく後ろ向きな質問をしてきた。いつもは前向きな心さん。

その言葉が、心さんの不安を訴えているように感じられて。

「心さん」

あたしはいすに腰かけたまま、心さんへと腕を伸ばす。

「なによ」

どこか拗ねながらも、ちゃんともっとそばに来てくれた。

首に腕を回して、ギュッと抱き寄せる。

「大好き」

誰にも聞かれないように、耳元に囁く。それがあたしの返事。

「バカね、本当に」

そうだ。こんな風にいうとこまで似てるんだ、心さんと凌平さんって。