「そうやって大事にされてなさいよ」

顔だけ振り向き、あたしに向けてだろう言葉を呟きいなくなった。

震えが止まらない。ママの姿が見えなくなった瞬間、膝から力が抜けた。

「マナ!」

お父さんが駆け寄ってくれる。腕の傷を見て、「すまない」と唇を噛んだ。

「お父さんのせいじゃないよ」

それ以上言えない。なんとか笑うのがやっと。

「伊東」

今まで傍観していただけの先生が、あたしを呼んだ。

「……小野塚の発表が始まるが、どうする」

いつもな強気な口調の先生にしては珍しく、遠慮がちに話しかけてきた。

「見に行かなきゃ、約束したもの」

切られたか所がひりつく。おでこから汗が噴き出す。

「聞いてって言ってたもん」

立ち上がろうとするけど、緊張が解けたのと怖かったのでか、足に力が入らない。

「マナ」

凌平さんが耳元であたしの名前を呼ぶ。

返事をする間もなく、凌平さんの腕の中にあたしはいた。

「先生。マナをいすに腰かけさせてやりたいんだけど」

抱き上げて歩き出し、先生にそう話す。

「……こっちだ」

先生も凌平さんの先を歩き、体育館へと入っていく。

お姫様抱っこをされながら体育館に戻ったあたしを見て、他の学生が目を丸くしてる。

状況が状況じゃなきゃ、あたしだって恥ずかしいし、絶対拒んでる。けど、今はいい。

「ここからなら、よく見えるはずだ」

先生が指したいすにあたしをそっと腰かけさせてくれた。

背後に立って、肩に手を置いてくれる。一緒に聞こうねと言われてるみたいで嬉しい。

「それでは発表を始めます。一番。三年A組。小野塚心(こころ)」

役員のアナウンスがあって、心さんが壇上に上がった。顔には笑みを浮かべていた。

 心さんが深呼吸をし、持っていた原稿用紙をパタンと伏せた。

「今日は学園祭です。せっかくなので、先生方が私を選んだことを後悔しないように盛り上げようと思います」

そんな言葉から始まった発表。

堂々と胸を張り、心さんがハッキリとした口調で発表していく。

それはさっきあたしが知ったばかりの事実の話。

心さんが本当は男の子だということ。自分が生まれてしまった、空手の名門という名の家。

それは別に気にしたことはなかった。空手は好きだった。ただ一つを除いては。

『性同一性障害』

心さんはそういう心の病気だと自分を指した。