「マナ!」
駆け寄ってきて、ギュッと抱きしめられた。
「痛っっ」
止血している腕が痛くて、思わず声を上げてしまう。
「あ、っと。ごめん」
「ううん。ちょっとだけだから、平気」
そう笑うと「またそうやって強がるし」と頬を撫でてくれた。
「おい、小野塚。そろそろお前の発表の時間が」
先生が外に出てきて、現状を見て「何が……」と言ったきり絶句した。
「何も起きてないわ。そろそろあたしの発表の時間なんでしょ?先生」
先生にそう言い返し、「先に言ってるから、来てね」と微笑みながら体育館に戻って行った。
今から心さんの発表。あたしはまだ先だから、時間が少しはある。
顔を上げ、ママに向かって話しかける。
「ママ、お願いがあるの」
こんなことをされてても?って、心さんの声が聞こえそう。
「これから発表があるの。お願い。聞いていってほしいの」
「……嫌よ」
立ち上がり、手首をさすりながら立ち去ろうとする。
「だって、発表見に来たってさっき言ってた」
その言い方は子供じみている。わかってるもん。それでもいいんだ。
「ちゃんと見ていって。あたしの作文、聞いて」
さっきの切りつけられた怖さが消えたわけじゃない。
それでも、ママと話すチャンスはもうないかもしれないと思えた。
「あたしを見てほしいの、ママ」
だから、声が震えてもいい。怖さに涙が溢れていたっていい。
「離れないで。いなくならないで、ママ」
ずっと胸の奥、しまっておいた想い。好きだよって言いたかった。それを言葉に乗せる。
「あたしから逃げないで」
凌平さんがあたしの肩を支えてくれる。ゆっくりと立ち上がり、ママと視線を等しくする。
「あたしの願いを叶えるのは嫌だろうけど、最初で最後になってもいい。叶えて。お願い聞いてよ、ママ」
二度とない。きっともう会うこともない。そんな予感がした。
あたしの心をぶつけた言葉にも「嫌よ」とだけ返すママ。
「けんちゃん、起きてよ」
意識を失ってた男の人を揺すって、腕を引っ張り上げた。
「椿、ちゃん?」
痛むのかお腹をさすりつつ、ママの後に付いていく。
「香代さん!」
体育館の陰から、お父さんが息を切らせて現れた。
「何をしたんだ。マナに、自分の娘に」
怒鳴るわけでもなく、静かにお父さんは怒っていた。
「別に。発表するっていうから、景気づけよ」
あっけらかんとそう言い返し、男の人を連れてお父さんの横をすれ違って行く。

