そうしてあたしの前に跪き、「止血するわね」といつもの声で呟く。

「ナオト、ネクタイ貸して」

「あ、あぁ」

お兄ちゃんがネクタイを手渡すと、手馴れた様子で止血をしてくれる。

「ちょっと痛いわよ。我慢しないさいね」

ほら。こんなにもいつもと同じなのに。

「それと。……ああ、ナオト。これ濡らしてきて」

ハンカチを手渡す。お兄ちゃんは何も言わずに受け取って、いなくなった。

「拭ける部分だけキレイにしてあげるから」

ほら……。一緒。一緒だよ。いつもの心さんだよ。変わらないよね。

自分に言い聞かせる度に、混乱が濃くなっていく。

「小野塚心(しん)が、あたしの本当の名前」

もう一枚のハンカチで、あたしの顔の汗を拭く。

「その話は後で聞かせることになるから、ちょっとだけ待っててくれる?」

真剣な顔に、頷くしか選択肢がない。

「ありがと、マナ」

そういって頭を撫で、心さんはゆっくりと立ち上がった。

「さてと、どうする?あんたのお母さん」

心さんがママを威嚇するように見下ろした。

「どうするって言っても」

決められない。あたしだけで決めていいとも思えないし。

「本気で殺ろうとしたのよね、あんた」

ママに向かって語りかける心さん。

「そうよ、悪いの?」

「悪いに決まってんでしょ?」

心さんがそう返しても「子供は親が自由にしていいのよ」と、心さんを睨み返した。

「自由にね……。どこの親も身勝手よね。子供がどうあることが幸せか、話し合いすらさせない」

そうママに話しかける心さんの言葉は、あたしたちのことだけじゃないようでもあって。

「勝手にも程があるわ。命まで自由にしていいわけないでしょ」

ママへと歩を進めながら、そう返した。

「なによ。触らないで」

ママの腕をつかもうとした手を、パチンと弾く音がした。

「こういう大人は、やっぱりオシオキが必要なのよ。ナオトのお父さんがしてたことは、ある意味正解だったのね」

「心さん……」

「DVって程じゃなくとも、その暴力には確かな理由があった。不確かな気分的な理由での暴力じゃなかったもの」

正直どこまで知ってるんだろうって半信半疑なところはあった。

思ったよりも深いところまで、心さんは知ってたんだ。

もしかして、その場にいたのかと思いたくなるくらいに……。

見つめるあたしに「ごめんね、黙ってて」と、また悲しげに笑う。

「悔しくなるくらい、あんたのこと誰もが大事に思ってたの。ナオトの想いも全て、あたしは知ってる」

「お兄ちゃんの想い?」

聞き返した時、遠くから凌平さんの姿が見えた。お兄ちゃんと一緒だ。