「……つっ」
ジクジクした痛みが腕に走った。その直後から、一ヶ所だけが熱くて痛む。
「あ……」
かばうようにした腕が、ママの刃物で切られていた。
赤く流れていく血。制服に染みていく。
スカートの赤と緑のチェックにも、ポタポタと落ちて色づく血の色。これがリアルだと教えてくれる。
「かばうからよ、バカね」
そういいもう一度ママが刃物を振り上げた時、諦めたように腕を上げることすら止めた。
「何やってんだ!」
聞いたことがない声が聞こえた。凛として通る、はっきりとした声。
(誰?)
固まったまま身動きできない。
(誰でもいい。助けてくれるなら)
なんとかして這いずりながらも、その場を動こうとすると「そこを動くな」と同じ声に制された。
「は、はい」
反対からは「マナ!」と呼ぶ声。声の方に顔を向けると、お兄ちゃんの姿を見つけた。
お兄ちゃんに向かって腕を伸ばそうとした刹那、「屈め」と短く叫ぶ声。
反射的に従ったその頭上から、ヒュッという風の音の直後に「ぐっ」と苦しげなママの声が続いた。
頭をかばうようにして屈めてた体を起こし、立っている人を見上げた。
「それでも母親か、あんた」
耳を疑う。それと、目も。
「大丈夫か」
「心、さん?」
目の前にいる人がわからなくなった。さっき聞いた声。それは男の子の声だった。それは今も同じ。
「椿ちゃん!」
男の人がママに駆け寄る。手を攻撃されたらしい。反対の手で手首を抑えて唸っているママ。
「椿ちゃんに……っ」
逆上した男の人が、心さんに向かっていった。
「逃げて!心さん!」
そう叫んだ。でも、心さんは逃げもしなかった。やられるって思った。
「心配するな」
いつもの顔に男の子の声。心さんがゆっくりと息を吐き、構えて、次の一瞬でそれは終わった。
「うあぁっっ」
男の人が草の上でもんどりうっていった。
ポカンとして、ママと男の人を見てるしかできない。一体、何が起きたんだっけって整理が追いつかないんだ。
「シン!」
誰かの名前をお兄ちゃんが呼んだ。誰のこと?と視線をさ迷わせてみても、誰のことかさっぱりで。
「全国覇者が何やってんだよ。手ぇ、抜いたんだろうな」
そういいながらお兄ちゃんが話しかけたのは、心さん。
「え……、何?どういうこと、かな」
二人は当然のように会話をしている。あたしだけがわからないままで放心してる。
「……ごめん。嘘ついてた」
そういって悲しげに微笑む心さんが、今にも泣き出しそうだった。

