「ママ!」
慌て出ると、怒鳴り声で、
「あんたね、学校休むなら連絡してよ。恥かいちゃったじゃない」
と言われただけで、こっちの言い訳もなしに切られた。
電話が鳴った瞬間、ちょっとだけ期待してたみたい。
あの時はごめんねって、大丈夫?って言ってくれるのかって。
数秒で終わった電話の後に、ものすごく落ち込む。
もうママはママじゃなくなったんだって、また痛感した瞬間だった。
夢見の悪い夜を過ごし、朝になって嬉しいこととガッカリすることが起きた。
腫れが引いてた。
学校に行ける。買い物が出来る。でも、体が動き出さない。
「……眠い」
体が重たい。限界の上を越えた気がした。
それでも行かなきゃダメだ。本気で空腹でどうにかなってしまう。
「はぁ」
ため息をつき、自分を奮い立たせてゆっくりと準備を進めた。
玄関にある鏡に映る、自分の姿。
首にそっと手をあてると、息が苦しくなる。
「やっぱまだダメ」
こぶしを握って、唇を噛む。
あの時の感覚は、目を閉じずともよみがえる。
ズルズルと足を引きずるように歩き、やっとコンビニに着く。
お金を下ろし、財布にお金を入れて店を出た。
「あ」
せっかくお金を下ろしたのに、買い物を忘れてた。
踵を返すと、会いたくない人が立っている。
「おはよう」
その声に返す言葉がない。返せるはずがない。
「ダメだよ。他のコンビニ使っちゃ」
いつものように笑って、レジ袋を渡してきた。
「はい、お弁当。今日のも美味しいよ」
あの電話の夜がなかったかのような笑顔。
無視し続けたレジ袋。
「来ないでって、あたし」
そこまでいいかけて、話してること自体もダメだと口を噤む。
顔が歪んでいく。
笑うことも出来なければ、怒ることも出来ない。
苦しい。辛い。
(どういえば、伊東さんに分かってもらえるの?)
伝えられない真実に、頭痛と吐き気が襲った。

