それをわかっていても、どこか危機感が足りないのかもしれない。
だって、横目で凌平さんをみれば、笑顔が返ってくる。
「俺じゃ役不足?」
心さんに伺うように、聞いてくれる。
「役不足っていうか、十分なんだろうけどね」
やれやれといった風に心さんがいい、あたしの肩にあった凌平さんの腕を引っ張った。
「ちょっと来て」
「はいはい。マナ、ちょっとだけ待っててね」
二人が廊下の隅で、体を寄せて話している。大きな体を小さくして話してるのが可愛いや。
(こんなこと感じている時点で、やっぱり自分の身に危険が迫っているって実感がないんだな)
自分に呆れてしまう。本当に何かが起きてからじゃなきゃ、慌てられないんだもん。
「じゃ、時間までにはマナ連れてくるから」
「約束よ!わかってんでしょうね」
ほら、こんな感じ。……いいなぁ、なんだか。
また二人を見てしまう。また同時に振り返られて「さっきから何?」だなんてシンクロして言われてしまう。
「なんでもないってば」
子供のような感情を隠して、凌平さんの腕を引き「いってきます」といい、その場を離れる。
「時間厳守よ。それと、本当に気をつけてね」
最近嬉しくなることが多すぎる。自分を案じてくれる人の存在がそう。
「うん!」
小さく手を振って、凌平さんと一緒に歩き出した。
「さて、裏案内始めようかな」
裏案内。それは、ここの高校の出身だという凌平さんならではの案内。
「でも本当なら在校生のあたしが案内するんですよね」
そう聞いても「そんなんつまんないよ」と笑う。
「よく知ってる場所だもん。これから案内する場所は、ナオトだって知らないよ」
さりげなく肩を抱かれる。
「こ、ここっ、学校です」
それとなく距離を取った。
「ヤダ。許さない」
また始まった。子供のような凌平さんだ、これって。
でも嫌いじゃないんだ、この凌平さんって。
「そう言われても困ります」
「俺は困らないし」
「あたしが困ってもいいんですか?」
そう返せば、すこし悩んでから「俺が困らないからいいの」と決定されてしまう。
「……もう」
その甘やかし方が好きだなぁって思い始めたのは、本当に最近。
上手に甘えられないあたし。
凌平さんの方が甘えてくるように拒否をすることは、たいていあたしが甘えることを拒んだ時。
やんわりと拒まれて、あたしが甘えることをせざるを得ないようにしてくれる。
「じゃあ、最初はこっちね」

