それが相手にとって、裏切りになるかもとわかってても。それでも動いてた。

 伊東さんの目が変わる。あたしを見る目が、冷やかなものへと。

「痛いんだろう?」

どれがということなく問いを投げかけられる。

「あ、あの、その」

その目が怖くて、体が震えだしている。

自分がした裏切りの行為。その重さがわかるから余計に、伊東さんの視線が怖かった。

「マナ」

背後から呼ばれる。

「お兄ちゃん」

首だけ振り向くと、お兄ちゃんも顔を歪めてた。

「さんざん痛い思いしてきただろ、お前」

「でもだからって」

凌平さん、間違ってないよって言ってくれる?大丈夫?いいんだよね?って、心で呟く。

「そんなことして話しても、ママにわかってもらえないままです」

これも事実。認めたくないことばかりが事実だ。

ママを力任せに、自分の背中の方に押しやった。

「痛いでしょ、やめてよ」

チクチク刺さる、重なる拒絶の言葉。いくつ刺されば痛みを感じなくなるのかな。

「お兄ちゃん、そこを避けて」

ママを逃がす。この場でこれ以上は、ママと話すことができない。

本当に話したいことは、二人きりじゃなきゃダメ。二人きりは怖いけど、ダメだよ。

喉がカラカラ。唾、どこいったの?

息を飲み、とにかくママを護ることに集中しようとした。

すると、意外なことが起きる。

「好きにしたら?」

そういいお兄ちゃんが場所を開けた。ドアを塞ぐように立ってたのに。

「ただし、後悔する。それをわかってるんだよな」

「ナオ」

伊東さんがお兄ちゃんを静かに呼ぶ。チラッと伊東さんを見たものの、お兄ちゃんはすぐに体をズラした。

「ママ、逃げて」

ママのことを思ってした行動。逃げなきゃもっと悪化するかもって思った。

腕を掴んでドアの方に引っ張ろうとしたら、その手も弾かれた。

「触んないでよ」

最初の後悔。ママが嫌悪の顔を見せた瞬間に、後悔した。

今度はあたしの顔が歪む。

辛くないわけがない、こんなにも一方通行過ぎる思いが。

「あたしのこと嫌いでいいから……逃げて」

息苦しい思いを踏みつけるように、なんとか押し出した言葉。

「……いやよ」

間があってから、また拒絶。

「あたしは一馬さんのそばにいるの。たとえ、あんたを憎むことになってもね」

もう二つ目の後悔。

「でも、このままだと」

どういえばママを救えるの?という思いだけで、言葉を紡ぐ。

「ママに元気でいてほしいのに、叶わなくなるのは嫌なの」

言葉を選び伝われと願った言葉も、「エゴじゃない」の言葉で一蹴された。