「……バカ」

また言われた。

「大丈夫、平気。マナの嘘の常套句だよな」

「じょう、とう……」

またわからないし。勉強不足だな、あたし。

「強がりは、女の子には似合わないからやめなよ」

「そういわれても」

とか返してたら、「マナー」ってお兄ちゃんの声。

「はぁい」

とだけ返す。すると電話からこんな声がした。

「見て、受け止められなくても、とにかく帰っておいで。俺が受け止められるまでそばにいるから」

自分だけでダメでも、一緒に悩んでくれるっていう言葉。

「……うん」

「じゃあ、行っておいで」

そういって通話が切れた。

「行かなきゃ」

深呼吸をして、トイレを出る。

「マナ」とお兄ちゃんがもう一度呼ぶ。返事をして、リビングに戻った。

「じゃあ行こうか」と伊東さんが言う。

コクンと頷いて、伊東さんの後ろをついていく。

奥の方に行くと、お兄ちゃんの名前が書かれたプレート。

そこをさらに奥へと行く。

「ここだよ」

伊東さんがドアを開けた。そして、「後悔しないようにね」と告げた。

 
薄暗い部屋。その奥にベッドがある。

ベッドに布団も掛けずに寝転がってるママの姿。腕にはあの時と同じ包帯。

静かな部屋で、ママの寝息だけが聞こえてた。

ほとんど化粧っけのない顔。そうだ、こんな顔だった。ママって。

「会って、どう思ったのかな」

そばのいすに伊東さんが腰かける。お兄ちゃんはなぜか入り口で立ったまま。

「こんな顔だったなぁって」

感慨深げにそういうと、「触れていいんだよ」と伊東さんが言う。

「触れて?」

思わず聞き返す。「そう、触れていいよ」と繰り返される許可。

「でも気持ちよさそうに寝てますし」

本当に深く眠ってるのか、三人が入ってきても気づかないで寝続けてる。

「起こしてもかまわないんだよ、マナちゃん」

「けど、出来ません」

あたしがそう言ったのに、伊東さんが立ち上がってママを揺すった。

「あ!」

反射的に声が出た。揺すったことよりも、あたしの声にママが反応を見せた。

「なに?うるさいなぁ」

顔にかかる髪を手でかきあげて、顔を上げた。あたしだけを見て、そして、固まった。

「な、んで」

「ママ」

驚きの表情。それから、ゆっくりと紅潮していき怒りを露わにした。

「あんた、あの店どうしたのよ!」

勢いよく起き上がり、一気にあたしへと間を詰める。一歩後ずさるものの、すぐに手首をつかまれた。