「あぁ、市場調査みたいなもんか。にしても、飲み物くらい俺たちがやるって」
「いい。俺がやりたいんだ、やらせてくれ」
(あれ?今、俺って言った?)
初めて耳にした言葉に、ドキンとする。
「マナちゃんはレモンティーがいいよね。僕が淹れたのでよければ、飲んでみてくれるかな」
(あれ?いつもみたいに僕になった)
違和感。何かがキッカケで俺っていうのかな?すごく気になる。
三人でダイニングテーブルに腰かけて、ゆっくりと息抜きをする。目が合うと微笑みあう。
(こういう空気っていいな)
ここにいない二人。なんだかその二人もが一緒にいるよう。空気があたたかい。
「あ、このミルクレープ美味しい」
「そういう名前だっけ。そうか、美味しいかい」
「俺のシフォンケーキも美味いぞ」
「名前見てこなかったな。よく知ってるなお前」
「心がそういう場所、好きだから」
うんうんと頷きながら、三人での時間を本当に楽しんだ。ただ、頭の端にはママのこと。
「あの」
二杯目の紅茶をもらいながら、切り出してみる。
「ママにもご飯って持っていったりとか」
お昼ごはんの時、どう見ててもどこかに運びに行った感じがなくて。
「あぁ、大丈夫。今、ここにはいないから」
「え……、いな、い?」
伊東さんをみると、目は普通に笑っているのに何か怖い。
「だって、マナちゃんとまだ仲直りできそうもないからね」
「仲直り」
「そんなこといいから、こっちのケーキも食べてみないかい」
違和感だ、これ。うん。
「会いたいです。ママに聞きたいことがあるんです」
フォークをお皿に置き、勇気を出して聞いてみる。
「香代さんに、聞きたいこと」
あたしが口にした言葉を繰り返す。ゆっくりと繰り返す伊東さんは、やっぱり笑顔のまま。
「僕が聞いてあげるよ。何を聞いておきたいのかな」
お兄ちゃんは黙って紅茶を飲んでいる。どうして何も言ってくれないの?
「マナちゃんはね、何もしなくていいよ。大丈夫。僕とナオトが護ってあげるから」
聞いてもいないことを話し出す。
大丈夫。この言葉、お兄ちゃんも言ってた。
「どうして大丈夫だなんて」
トクントクン。心臓がすこしずつ早く動き出す。
「だって、僕らはマナちゃんを大事に思ってるから」
違う。ナニカ、チガウ。
「僕ね、家族は血の繋がりじゃないと思うんだ。互いを大事に思えば、それは家族だって」
言ってることは合ってる。あたしはそんな扱いをされたことがなかっただけで、新しい家族に出会ってそう思えるようになってきた。

