「あたし、そんな風に想ってもらうような」
そうだよ、そんな人間じゃない。
「もうあたし……汚いし、すぐにいじけるし。あとそれから、んと」
自分の悪いところを挙げようとする。でも言おうとするうちに、悲しくなる。
悲しくなって、さらに凹む。
「それから」
一生懸命に話をしようとするあたしを、見守るように見てくれている凌平さん。
「違うよ」
ううんと首を左右に振って、そう切り出す。
「評価は周りがするもの。マナが勝手に評価していいものじゃないよ」
「だってあたし本当に」
ママに汚された体。
男女が惹かれてくとなると、その先にはつまり、そういう行為がある。
きっとダメ。怖い。自分が汚いから触らない方がいいと思う部分と、恐怖感。
どっちも凌平さんの気持ちを拒もうとする理由には十分。
ううん、凌平さんだけにじゃない。
もう誰とでも、そういうことは出来ないのかもと思うんだ。
怖い。それと、あの時の痛みがよみがえりそうで嫌だ。
「凌平さんは、普通の女の子を好きになって」
遠巻きな、離れて……のお願い。気づいてと祈る。
「あたしはホラ、お兄ちゃんのこととかあるから」
あなたをずっと見ていることが叶わないという思いが、伝わるといいのに。
「冗談だろ」
一蹴。
「俺は普通とかそうじゃないとかで、女に惚れたりしない」
怒鳴るでもなく、静かにそう告げる。
「俺はマナだから好きなんだ」
真剣な視線。避けられない眼差し。
「だからなんだ。マナが痛くなるのは嫌だ、俺は」
あたしの痛みを共有するっていうことなのかな。
「まだ痛くなってないのに」
不意に聞き返す。「そうだけどさ」と、大きくため息をつく。
「じゃあ、ぶっちゃけていうよ。これを聞いても、まだ家に行く覚悟があるなら行けばいい」
一気にまくしたてて、深呼吸するかのようにある単語を口にした。
「DV」
初めて聞く単語。理解できなく、凌平さんを黙ってみる。
「ドメスティックバイオレンスっていうのも、聞いたことがない?」
やっぱり知らない単語だ。テレビを見ることが極端に少ないからだね。

