「……バカね、本当に」
あたしは顔に出やすいのかもしれない。
「これから先、あたしが代わりに一緒にしてあげるから」
お兄ちゃんの彼女なのに、妹のあたしを実の妹みたいに扱ってくれる。
優しい人ばかりに囲まれて、今のあたしはなんて幸せなんだろう。
「ほら、トマト洗っちゃってよ」
「うん」
手の甲で涙を拭い、トマトを洗う。
離れて、嫌われて。殺されかけもしてから、こんなにママに寄りかかりたかった自分を思い知る。
離れてから何度目かな。気づくの。
拭っても涙は勝手に出てくる。
「いっそそのままほっときなさい」
涙を流しながら、料理を進める。生姜たっぷりの生姜焼き。
焼くと体が勝手に反応する。
「あははは、いい音」
って、隣りで心さんが爆笑してる。
「だって」
したかったことが、こんなにもある。こんな会話もママと……って。
お兄ちゃんのこと、ママのこと。伊東さんへの信頼感。
悩むべきことは多い。
(それでも前に進みたいって思うのは、変だって言われる?)
学校に変わらず通おうと思うのは、まだ変わってない。行くつもり。
危ないよね、確かに。
「はい、あとは運ぶだけよ」
出来上がった生姜焼き。それとお味噌汁にご飯。
小さめのテーブルで、ぎゅうぎゅうになって食べる。
「うん、美味しい」
みんなで囲むご飯が楽しいってことは、お兄ちゃんと伊東さんが思い出させてくれたこと。
ふとお兄ちゃんに目を向けると、いつものように美味しそうに食べている。
(お兄ちゃんが悲しい思いをするのは嫌だな)
そう思い、最初にしたいことを決めた。
お兄ちゃんの違和感を知ってる心さん。彼女に話を聞こうと思った。

