「って、何やってんだよ。凌平」
レジ袋と床に置き、凌平さんの後頭部に一発平手打ち。
「マナに余計な手出しすんな」
こうして話してる姿は至って普通。
「豚肉が安かったから、生姜焼きでもって思って」
心さんが話しかけ、隣りからいなくなった凌平さん。
「どうせナオトが肉食いたいとか言ったんだろ」
「ふふっ。よくわかったわね」
凌平さんと心さんが話してる間、お兄ちゃんはあたしの前にしゃがんで、
「大丈夫だったか?」
の一点張り。
「大丈夫だよ」
そう返し、お兄ちゃんに手を差し出す。そっと掴んでくれるその手はあたたかい。
この手だ。あの時あたしを救ってくれた手。ギュッと握ると、お兄ちゃんも握り返してくれた。
間違いならそうであってほしい。
何が起きているのかハッキリとわからないけど、お兄ちゃんの違和感をなくしたい。
今のお兄ちゃんの状態を、お兄ちゃんがよく思えてないなら……の話なのかな。
お兄ちゃんの気持ちを酌んであげた方がいいの?
けど、とか。でも、とか。迷いの言葉ばかりが頭に残ってる。
「マナ、お前も手伝ってこい」
「うん」
さすがにドレスのままというのも嫌だ。
「ネグリジェ?」
心さんが含み笑いをする。
凌平さんのロングTシャツを借りたら、そんな感じになった。
心さんと二人、キッチンに立つ。
「じゃああたしキャベツ切っちゃうわね。マナは肉に下味つけたら、トマト洗ってよ」
「うん、わかった」
トントントンと小気味いい包丁の音。
「ん?なぁに」
心さんがキャベツを切っている姿に、重ねてしまう。ママとこう出来てたらって願いを。
(どこまでバカなんだろう、あたし。凌平さんが前に言ってた通りだな。あたしってバカだ)
たった一回も叶わなかった。
ママと一緒に料理出来たらという願い。
後ろから指示を出されて、言われるがままに料理するっていうのはあった。
「変な子ね、もう」
ジワッと涙がにじむ。今でもこんなに苦しくなるなんて、バカだって思うしかない。

