「きっかけがなんなのか、それだけでも分かればな」
そういい、考え込んでるあたしに凌平さんの顔が近づいてた。
それにあたしは気づけずに、まだ考え込んでた。
「はい?」
間抜けな声が出た。
口角。そこに触れた凌平さんの唇。ゆっくりと離れていく顔。
「いつ!いつ近づいたんですか?」
頭が爆発したよう。一気に頭の先まで熱くなって、ずっと燃えてるみたいなの。
「結構ゆっくり近づいたのに、全然気づかないんだもん。チャンスだなぁって」
呑気な声が響く。
「真剣に悩んでるマナって、どうしようもなく可愛いんだもん」
「そういう状況じゃないです!」
あたしに考えることをふっかけてきておいて、そんなことするの?
「凌平さんがわかんないです!」
怒鳴りつけると、嬉しそうに笑ってから、
「じゃあ、もっと知ってくれる?俺のこと。興味持ってくれるの?」
なんて、よく響く声で囁いた。
「知らなくていいです!あたしは今、お兄ちゃんのことで精いっぱいで」
「自分のことは?」
「それもそうだけどっ!」
なんだかかなり振り回されてる。
「悩みを増やさないでください」
一瞬だったけど、確かに触れた。感じた唇の感触。まだ残ってるみたい。
どうしたらいいの?どれを最初に解決したらいいのかな。
「……はぁ」
うらめしそうに見ながら、ため息をつく。
「そんな顔しないでよ。ナオト、もうすぐ帰ってくるよ」
「あ」
そうだよね。気づいてても空気を重くして待ってると、きっと話してくれない。
「そうそう。マナは笑ってなきゃ」
にゅっと出てきた大きな手。それが……、
「いやぁぁぁぁっ、ちょっ!やめてっ」
激しく脇腹をくすぐる。
「やめてぇぇぇ」
ジタバタして逃げようとしても、凌平さんはくすぐるのを止めない。
「いやぁっ」
そう大きな声で言った時、お兄ちゃんが勢いよく入ってきた。
「どうした!マナ」
って。
その瞬間の顔は、いつもの優しい、あたしに甘いお兄ちゃんの顔だったんだ。

