それでもまだどこか重たさのある、胸の奥の方。
(さっき怒ってただけに、凌平さんに話しかけにくいな)
二人がいなくなった方をみて、またため息をつく。
「なぁに、何か聞きたいなら言えば?」
あたしが何も言ってないのに、凌平さんが切り出した。
「あたし何も言ってないじゃないですか」
顔もみずに返すと、「話はね、相手をみながらしようよ」って顔の向きを変えられる。
「あたし、まだ怒ってるんですけど」
「あ、そうなの?俺のために?」
「違っ」
もう、話にならないよ。
はぁ……とため息をつけば、今度は横に腰かけてきて、肩を組んできた。
「何してるんですか!本当に怒ってるのに」
「ふふっ。いいなぁ、俺すっごく幸せかも」
「何がですか」
「だってさ、こんなにマナに心配されるなんて、これが嬉しくなきゃ何が嬉しいって話だよ」
(……頭、痛いや)
そうしてまた吐き出すため息。それを聞き、凌平さんが話し出す。
「気になる?」
「凌平さんのことなんて、気にしてないです」
「それはそれで悲しいけど、ナオトのことだよ」
纏う空気が変わった。
「話したいんでしょ?」
「あ……う、はい」
誰かと話すといっても、凌平さん以外にいないよね。
心さんは何かを知ってるよう。
「何か隠してるって思ってる?ナオトのこと」
「はい」
それは思った。隠してるって、漠然とだけど。
「それだけしか感じない?マナは」
「それだけ?」
うーんと考えてみても、すぐには浮かばなくて。
「じゃあ、こういう言い方はどうかな?……違和感感じない?ナオトに」
違和感という言葉。それはとてもしっくりくるもので。
「ね?あるでしょ?違和感」
さも当然って顔で微笑む。
「あれさ、危ないよ。きっとね」
危ないという言葉に、いないのにお兄ちゃんの姿を追う。
「俺が出会った頃のナオトよりもっと危うさを感じるよ」
早く帰ってきてほしいと思いながら。

