「心さん」

小さな声で呼ぶと、「ナオトに任せてあげて」としか言ってくれない。

そういうってことは、お兄ちゃんの考えを知ってるってことだよね。

「あたし、当事者なのに?」

囁き返すと、「ごめんね。でも心配いらないから」と言ってくる。

心配いらないってどういうこと?

それと、もうひとつ。引っかかることがある。

「あの、凌平さん」

「ん?なに?」

お兄ちゃんの胸倉から手を離し、あたしの目の高さにまで腰をかがめる。

「どうしてですか」

「んー?」

呑気といえば、凌平さんも変わらない気がしちゃう。

「危ない橋だったと思うのに、なんでこんなに関わるの?」

いくら好きだといわれていたって、本当にわずかしか会ってない。

それでも命をかけられるだけの好きだなんて思えないんだもの。

「言ったじゃん。マナのこと好きだってさ」

「でもそこまでのことじゃ」

わかんないもの、そんなに浅い付き合いでそこまでになれるって。

「いつかマナにもわかると思うけど」

「わかるって?」

不思議。わかんない。その感情たった一つで動けてしまえるの?

「恋すると、危ないとかそういうことが、どうでもよくなっちゃう」

「……わかんない!なんで危なくてもいいのか、わかりたくないです」

だって、もしもそれで怪我しちゃったら?死んだりしたらどうするの?

「嫌じゃないですか。一度でも会ったことがある人が、痛い思いをするって」

「それは俺も?」

改めて聞かれて、コクンと頷く。するとあたしは半ば怒ってるのに、凌平さんが顔を明るくした。

「うっわ。……ちょっとニヤけていい?ねぇ、マナ」

口元を手のひらで押さえながら、本当にニヤけてる。

「ダメ!そんな話じゃないのに」

あたしは必死に話してるのに、茶化されてるの?ひどいよ。

「あーもう、ダメ。しばらくコレで妄想出来そう」

なんて言い出す始末。

「もう!凌平さん嫌いです」

悲しい。悔しい。

あの時、助けてくれた時は嬉しかったけど。

「死んじゃったらどうするんですかぁ」

知らないうちに怒りながら泣いてた。

そんなあたしをみて、凌平さんはさらにニヤけてはお兄ちゃんに殴られてた。