すっぴんの時のママは、あまり記憶にない。

確かすごく童顔。それをいろんなものを塗りたくって、ああも見事に化ける。

「どうかした?」

鏡を覗きこんだままのあたし。心さんがコッソリ囁きかけた。

「うん。なんかね……ママに似てた顔がね」

「頭から離れていかないって?」

うんうんと頷く。

心さんがあたしの頬に手をあてて、

「化粧映えするのよね、肌がいいから余計に」

と、まるで愚痴のようにいった。

「そうなの?」

聞き返すと、「ムカつくもの」というし。

ママに昔聞いたら、化粧をすると仕事をする気分のスイッチが入るって言ってた。

ママの収入に頼ってたあたしの家。

そうやって気分をあげなきゃ仕事なんてやってられなかったのかもと思った。

ママもやっぱりパパに甘えたかったのかな。

パパの悪口いってたっけ、あの時。

あたしのこともパパのことも、嫌いでしょうがないって顔をしながら。

「学校って休むんだよね」

不意に聞かれた。

「凌平さん?何言って」

「だって、いなくなったことがバレたら、マナの母親が何かするかもしれないんだろ」

「確かにそうなんだけど、このまま通わないのもったいないし」

「もったいないって、自分の命かかってるかもしれないのに?」

そうなんだけど、学校にかかってるお金がもったいなくて。

それに初めての学園祭。今まではそういうものには関心がなかった。

「今年のは、ちゃんと参加したくて。学校祭」

そういったあたしに「呑気すぎじゃない?」と怒った表情の凌平さん。

「あのね、マナ。さっき俺たちが行かなかったら」

そこまで凌平さんが言いかけた時、お兄ちゃんが「大丈夫」と話を割った。

「は?」

気の抜けた返事をしたのも凌平さん。

「何が大丈夫だって?ナオトお前な」

顔がくっつきそうなほどの距離までお兄ちゃんに近づき、胸倉をつかむ。

「お前の妹なんだろ。大事な大事な」

そう怒鳴った凌平さんに反して、お兄ちゃんは淡々と返した。

「大丈夫。なにも起こらねぇから」

いつものように笑ってそう言ってくれているだけなのに、どこかが違ってみえた。