「とりあえず俺んち連れて行くから。必要なもの、途中で買おっか」
「だって。わかった?マナ」
心さんがそういって、いいこいいこする。
「……うん」
頷いたものの、心は晴れるはずがない。
思い出すと体が震えてくる。
ママが、あたしを売ったという事実。
まだ幼い女の子も結構いた。そんな子が、男の人に体をって思ったら怖い。
そしてあたしもその中にいた。同じことをしなきゃいけなくなるとこだった。
売られた自分。ママに不要ってまた言われたようなもの。
(でもおかしい。今までなんで何もしてこなかったの?)
逆にどうしてこのタイミングなのかわからなかった。
畳みかけるようにすぐさま攻撃してくるのかと、どこかで恐怖感を抱きながら生活してた。
けどそれはなく、平穏無事という言葉が似合いそうな生活だった。
そして、あの腕の怪我。今日お兄ちゃんは実家に戻ってた。
「お兄ちゃん」
意を決して聞いてみる。
「今日、家に戻ってたんだよね」
「あぁ」
「ママ、その時はいたの?」
「……いや、いなかった」
そうなのか。
「腕に包帯巻いてた。なんの怪我かなんて知らないよね?」
「怪我か。……さぁ」
お兄ちゃんはこっちも見ずにそう返す。
いつもならどんな話でも顔を見てくれるのに。いつもとほんのちょっと違うだけで、すごく違和感を感じる。
「本当に知らないんだ、よね」
もう一度確かめる。
「あぁ」としか返ってこなかった。思わず心さんの手をぎゅっと握る。
あたしの気持ちがわかるかのように、握り返してくれる。
コンビニでクレンジングとかを買って、凌平さんの家へ。
心さんがきれいに落としてくれた化粧。顔に皮を一枚かぶった感じだった。
「気持ち悪かったでしょ」
片づけをしながら心さんに聞かれ思い出したのは、鏡に映った自分の顔。
ママに似てた、あたしの顔が浮かんだ。

