「…紀一さん…」

さくらが、小さく呟いた。
紀一は急いで駆け寄る。

「…起きたのか…?」

コクリと、頷く。

「どこかに行くんですか…?」

上目使いで見つめられて、胸が高鳴る。
このまま彼女と一緒にいたいと、気持ちが揺らぎそうになるのを、紀一はぐっとこらえる。

さくらの額の髪をさらりとよけて、紀一は頷いた。

「早く、帰って来てね…。」

悲しそうに微笑むさくらを見て、胸がつまりそうになる。

帰って来たら、きっと我慢なんてさせない。彼女が飽きるほど一緒にいよう。

「…早く、体治さなきゃな…。」

「私、平気です…。」

「だめ、ちゃんと治せ。お前が頑張ってる間に、俺も戦って来るから。」

さくらの瞳が潤んでいくのを、紀一は見逃さなかった。
それでも彼女は、泣きそうでも我慢して、けして泣かないのも知っている。

いつの間にか、厚子は部屋からいなくなっていて、



「さくら。」




横たわっている彼女の唇に、優しく自分の唇をあてた。

さくらの瞳から、涙が流れた。


「…紀一さん…」






「帰って来たら、また一緒に暮らそう。」



その言葉を信じて、待ってるから。