最初に愛の部屋が、燃え盛っていることに気付いたのは厚子だった。

「愛ちゃん!!!」

厚子が叫ぶと、愛が振り返った。

愛は、泣いていた。

厚子が見た、愛の笑顔以外の初めての表情だった。

「厚子さん…みんなを逃がしてあげて。
私は私の狂気に勝つことが出来ない。」

「…あなたも逃げるのよ。」

厚子が手を引くと、愛はその手を振り払って、厚子に一枚の封筒を渡した。

「先生に、渡して。」

厚子が受け取ると、愛は厚子に抱きついた。

「ありがとう、私、厚子さん好きよ。
…さよなら。」

そしてすぐに離れると、愛は病院のどこかに走り去ってしまった。

それが、厚子が見た愛の最後の姿だった。