監禁恋情

それから和樹は、一度家に戻り、なるべく2人が見つからないようにすると言って、病院から去った。

さくらはため息をつく。

コンコン。

また
ドアがノックされた。

ドアを開けて、あの女性が入って来た。

「昨日から、何も食べていないでしょう。」
女性の両手に持つ盆で、暖かそうな食事が湯気をたてていた。
「あなた…お名前は…??」

きちんとした形で名乗るのは、これで二度目だ。

「さくらです。」

「そう、私は吉田厚子(よしだあつこ)と言います。」

女性はそう名乗り、深々と頭を下げた。
さくらも、つられて頭を下げた。

「こんなことを聞いていいのかしら。」

厚子が、困ったような表情を浮かべる。
さくらは首をかしげた。

「あなた先生の…その…恋人なの??」

さくらは最初驚いて黙っていたが、
やがて顔を真っ赤に染めて首を大きく横にふった。

「ち…違いますっ、紀一さんは…その…っ。」

しかしさくらには、紀一と自分の関係を言葉にすることが出来なかった。

友人
恋人
家族

すべて当てはまらない。

一番当てはまるのは、

「主人と下僕」

この言葉だった。
しかしそんなことを厚子に言えば困らせるだけだろう。
第一、さくらの拙い言葉では正確にこの関係を言葉にすることは、やっぱり無理だ。

「…大切な人です…紀一さんは。」


はにかんで言った。
さくらにとっての精一杯の表現がそれだった。