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さくらと紀一と、和樹、そして運転手にあの見張りの男、(先ほど相馬と名乗った。)の4人は、車で病院に向かっていた。
紀一は、さくらの隣で、ピクリとも動かずさくらにもたれかかっている。
本当に、目を覚まさないかもしれない。
さくらが心配になって顔を覗きこむと、小さな息遣いが聞こえ、安堵する。
「どうやら、本当に食わず眠らずの生活だったようですね。」
助手席から、和樹が声をかけた。
「私が来てからも、眠っているのは少ししか見たことがありません。…それでも、良くなってきているとは思っていたのですが…。」
さくらがため息をつく。
紀一が目を覚ましたとき、また死のうとするのだろうか。
それを考えると、もうしばらく目を覚まさずに、ゆっくりと眠っていてほしいとも思う。
「…今日は僕がたまたまあのマンションに用があって来ていました。
すぐに駆けつけられてよかったですよ。」
和樹が言う。
確かに、和樹はすぐにさくらの元へやって来た。
「和樹さんは偉い人なのですか?」
さくらが、ふと聞く。
和樹様と呼ばれているほどだ。
実は和樹がかなりの力のある人物かもしれないと、さくらもなんとなく気がつくことができた。
「僕は旦那様…いえ、紀一さんの兄にあたる方に昔から仕えていましたから、少し重要な仕事を任せられる立場というだけです。」
「…信じていいのですか?」
さくらが、不安になって聞いた。
そんなに重要な部下である和樹が、本当に主人を裏切ってさくらを救ってくれるのだろうか。
「…僕は僕なりの考えを持って行動しています。なによりあなたの幸せのために、僕はあなたを裏切りませんよ。」
強くはっきりとそう返した。
そうしてさくらも、それ以上聞くのをやめた。
「旦那様に見つからないようにしなくてはいけませんから、少し遠い病院に行きます。今は夜ですし、普通の病院は連れて行けませんから、僕の知り合いの所に行きます。よろしいですね?」
「はい。」と、さくらは返事を返し、隣に眠る紀一の手をぎゅっと握った。



