夢のような、甘い感触が、襲っている。

世界で一番大事な人を、失おうとした時、私から出たのは、本当に自分勝手な言葉だった。

私は、何もかもわかった気で生きていたんだ。

感情を知らないから、自分は綺麗なんだと思っていた。

死すら怖くなかった。
生きるのも、死ぬのも、私には同価値だった。

だけど…私は、怖がった。
紀一さんを失うことを。
自分が再び一人になることを。

そして、自分よりもずっとボロボロなこの人に縋って、泣いて、バカみたいに、お願いした。

紀一さんは、なぜか微笑んで、私を引き寄せて、優しく、口づけた。


それは、魔法のように。
私の全てを包み込んで、洗ってしまったから。

私は、やっと、気づいたの。

この人を愛してるって。
知らないふりをしていただけで、生まれた時から知っていたんだ。

人を愛する気持ちも、
優しさも、痛みも。

全部、生きてるからだって。

私は…

私はやっと…

人間に、なれました。