「私、さくらっていうんです。」

少し嬉しそうな顔をして、照れたように言った。
そういえば、自分はこの少女の名前すら知らなかった。

「いい名前だ。」

微笑んで言う。
ちゃんと笑えているだろうか。

「紀一さんがつけてくれたんです。」

自分が、いままで見た中で、一番人間らしい柔らかい表情で、笑った。
そこで、玄関に、あの男が来ていることに気づいた。

少女もそれに気づき、部屋の中に静かに戻る。

「あなたの名前は?」

さくらと名乗った少女に聞かれ、名乗る。

「和樹(かずき)です。
…それから、紀一さん。」

睨むように、男がこちらを見る。

「その子が大切なら、気づいてあげれることがあるはずです。あなたなら。」

そう言って、お辞儀をして、部屋から立ち去った。


彼女を、守ろう。

自分にしか出来ないことがある。