紀一は、思っていた。

自分がさくらに殺される前に、さくらには自分が教えられる全てを教えよう。
自分がいなくなったときに困らないように。自分一人でも、きちんと生きていけるように。

それは紀一の祈りだった。

そして、紀一の考えも変わって来ていた。

少しずつ、眠れるようになった。食事が喉を通るようになった。

そして欲が出た。

今でも、愛のところに行きたいと思う。でも死ぬ時は、今目の前にいる、さくらに殺して貰いたい。

死に対する、始めての欲。
それは紀一に生気を与えた。

紀一は今、死ぬために生きていた。