はじめて、紀一の部屋で夜を過ごし、名前を与えられた日から、三日が経とうとしていた。

最初の日ほどじゃないものの、紀一は夜になると、何度も女性の名前を呼んだ。
それが一際治まった頃に、さくらは紀一に近づく。



「さくら…。」


力なく自分の名前を呼ぶ紀一を見つめて、ただ返事をする。

さくらからは、紀一に触れない。

触れてはならないと、自然と自分と約束していた。

紀一に求められるまでは、さくらは紀一に触れられない。例えどんなに望んでいても。




「さくら。」



紀一はただ今日も、
辛そうに名前を呼んでいる。