『人形が気にいらなかったか?』

何かを含んだような、兄の声。家族の中で唯一自分に干渉してくる人だが、自分のことを好んでいるとは思えない。むしろ馬鹿にして、蔑んでいる。

「…早く連れて行ってくれ。」

『そうか…。お前がそう言うなら仕方がないが、あの人形も哀れだなぁ…?』

「…どういうことだ?」

一拍おいたあと、兄は、ネットリと馬鹿にした笑いを含んだ声で、こう言った。

『…なぁ、兄としてこんなこと言いたくはないんだが、お前は家の恥で隠された部分なんだよ。うちほどの名家の次男の精神がおかしいなんて、世間には言えたもんじゃないよなぁ…?それを知った上で、用無しになった人形は…つまり…なぁ?』

男の頭が、揺れる。
吐き気がする。
つまり、つまりこういうことだ。
自分の事情を知ってしまった少女に、既に帰る場所などはなく。
用無しになれば…

「…殺すのか…。」

インターフォンと携帯の向こう側にいる、とても遠いところから話している自分の兄が、確実に、笑った。

『まぁお前がいらないなら仕方ないなぁ。なにせあの人形には口があるからなぁ。』

男は、低く掠れた声で、

「…もういい…」

それだけ言って、通信を乱暴に切った。