扉が閉まると同時に、父に聞いた。

「母さんは…いつから?」

「お前が、何度も自殺未遂をしていた頃から、少しずつ。あんなにおかしくなったのは、幹久。お前が、紀一に与えた少女を殺す為に給仕の女に毒を盛らせているのを、静がたまたま知ったあとだ。」

次々と、知らされる事実に、2人はもう何も言えなかった。
互いに、自分のことで精一杯で、母の様子に気づくことすらなかったのだ。

「人の命を、なんだと思っている。
お前らは、30年近く生きてきて、まだそんなこともわからんのか。




自分の命だろうが、
他人の命だろうが、
それをお前らのわがままで終わらせることなど許されない!


私にこれ以上、
息子が人を殺めようとする所を見せるな。
母にこれ以上、
息子が自分を殺そうとする所を見せるな。

今一度、それぞれの今後について、
深く考えてみなさい。」


途中、震える声でそう語る父の目が潤んだのを、2人の息子は見逃さなかった。



「それまで、幹久。
お前は、母の日常の世話を。
そして紀一。
お前は、息子ではなく医者として
母の体調管理と治療を。

和樹は、幹久がいない分の、私の仕事の補佐を。」

それでもすぐに気丈な態度に戻り、父としての厳しさと威厳を保つその人物を、生まれて初めて、心の底から尊敬した。

そして、三人は、強くはっきりと、

「「「はい。」」」

その偉大な男に、返事をした。