夏もすぎ、少し肌寒くなってきた頃。
近くに感じる空、浮かぶ雲に、手を伸ばした。
「掴めないな〜。」
そうして1人、屋上で寝そべっていたら、雲を掴もうとした手を誰かに握られた。
「お前、何を掴もうとしてるんだ?」
それは優しくて暖かい笑顔だった。
「最近、サボりすぎじゃねぇか?
優香ちゃんも心配してたぞ!」
「柊…久々だね、会うの。」
私と同じように、並んで大の字に寝転んだ。
「電話かけても出ないのは、美樹じゃないか。」
そぅ。あれから何度か柊さんから連絡がきていた。
けれど、出て、どんな気持ちで話をすればいいのかわからず、ずっと避けていた。
「不思議だよね。こうしてると、凄く近くに感じるのに、掴めそうなのに掴めない。」
「雲のことか?」
「うん。」
「美樹…何かあったのか?話、聞くぞ?」
「いえ、何も。」
そう言った私に、それ以上は聞いてこなかった。
ただ、隣にいてくれた。
だけど、それが何より嬉しくて。
「前、ここで美樹に初めて会った時にさ?美樹が言ってくれただろ?
"悲しみは消せないけど
癒すことなら、出来るかもしれない"
って。
あの時は、初対面のくせに、生意気だと思ってたけど。
人の優しさって、暖かいもんなんだと美樹に出会って知ったんだよ。」
「え…」
「誰かと一緒にいるだけで、心って癒えていくんだなぁって。
俺をあの日救ったのは、美樹だ。
だから、俺にも美樹を救わしてくれ。」
