11月に入り、すっかり寒くなったある日の午後。


「桜井さん…ちょっといいか?」


あまり学校では話かけてきたりしない、山本君が私の元へ来た。



廊下に出て、私は不思議そうに問いた。


「どうしたの?何かあった?」





「3年の加賀見先輩のこと…」


「柊がどうしたの?」


「先輩……彼女いるよ。」



私はびっくりした。なぜ、彼がいきなり柊の話をしてきたのか。


「この前、見たんだ。2人で宝石店入っていくのを。

俺、てっきり桜井さんと先輩が付き合ってんだと思い込んでたんだよ。

でも、違ったんだね。」



「そうだよ?柊に、彼女いることは柊から聞いてる。」



「え…知ってたの?知ってて、それでも先輩のこと…。」



「うん!好きだよ。」


「どうして?桜井さん、利用されてるだけだよ!それでも、先輩が?」


「り…利用?」


「だってそうだろ?夏休みの時だって、急に呼び出されたりしてたじゃん!

自分が寂しいから、でも彼女は忙しいからって桜井さんを。」



「違う…柊はそんなことしない!」


「じゃ、好きって言われたことある?
彼女との話で、別れるって言ってきたこと一回でもあった?

桜井さんが辛い時には、先輩は電話出てくれたか?」



山本君の言葉全てが、私の心にグサグサと刺さってくる。


「でも…柊は…私を守りたいって。」


「ほんとに守れるのか?彼女と宝石店だぞ?それがどういうことか、桜井さんわかってる?」



涙しか出てこなかった。
もぅ、山本君に言い返すだけの棋力はなかった。


「すまない。君を悲しませたくて、こんなこと言ったつもりじゃないんだ。


悔しいんだ。桜井さんほどのいい女の子を二番目にするなんて。
俺が先輩の立場でも、そんな事絶対にしない。」



私が泣いてるのを見つけた優香が飛んできた。



「美樹?大丈夫?何があったの?


山本君、なんかした?」



「山本君は悪くないの。…ごめん。」



私は走って屋上へ向かった。
涙は止まらず、ずっと流れ続けた。