「いいよ、傘なんて。 もともと俺、ずぶ濡れだし。」 「でも、」 女が何か言おうとすると 男は食い気味に言葉を発する。 「じゃぁさ、変わりに 俺の事覚えておいてくれよ。」 「え?」 「俺、 緋崎 翔(ひざき かける) ってゆうんだ。」 唐突な願い、 唐突でありながら 滑稽な願い。 その男は自分の事を覚えておいてくれと 何故か悲しそうな目で言った。