蜜柑の香り


鋭いアキのことだから、分かっているはず。

悩みの理由も
今の状況も

なんにもなくはない、ということはバレている。

それでも、こうして答えを待ってくれる辺りが

大人であり
優しい所。

「…ごめん。」

「……何がですか?」

小さな罪悪感と
妙な虚しさに謝ると、わざとおどけたようにアキが返す。

あくまでも
『私は知りません』

という態度をしてくれるアキに、ノボルは笑う。