室の外から誰かの小走りの音がこちらに近づいてくる。 「姫様、今そちらに行かれてはなりませぬ」 乳母の声が聞こえたと同時に勢いよく襖が開いた。風と共に、弥夜の文机の上に置いてあった紙は宙に浮き襖の手前に落ちた。弥夜と講師は眼を丸くした。 部屋に、入ってきたのは八歳になった、二の姫の李梗(りきょう)だった。 乳母は落ちた紙を拾い弥夜に手を添えて渡した。弥夜は軽く頭を下げ、紙を受け取った。 「姉上、庭園に菫が咲いておりましたので姉上に持ってきました」 手に持っていた菫を弥夜に差し出した。