「ふ~ん。俺はこんな国、嫌いです」


「えっ」


 予想もしていなかった言葉が返ってきて、顔がこわばった。冴は、歩くのをやめて立ち止まった。


 そして、李梗の顔を見下ろした。


「あんたみたいに大事に育てられている者には分からないとは思いますけどね」


 自身が仕えようとする姫君に対し無礼ほどがある。口調も人を挑撥するような言い方であった。


 冴は、形振り構わず言い続けた。


「この国と敵対している淋城国(りんじょうこく)との戦で俺の兄上は死んだ。兄上は、この国に忠義を誓って今まで働きをかけたのに、この国は、兄上を囮にして見殺しにした!」


 冴は、その厳粛な雰囲気を覆すように怒号した。眉間のしわが中央に引き寄り顔を歪めた。


 冴の兄の名は、海(かい)と言い、武官として優秀であった為、国の功績の為に囮として命を落とした。冴は、兄と同様に才気である。まだ、十一歳であったがその年で首席が認められた。


 しかし、冴は兄がいたからこそ出来たのだ。