大樹は、1年のときからずっと、早川が好きだった。


事あるごとに“早川”“早川”“早川”言っていた。


合宿のとき、寝言で早川の名前を呼んでいたと茂たちが笑っていたくらい。


顔もいわゆるイケメンでスポーツ万能。


それでいて、性格もいいからモテるのに、早川を好きになってからは、つきあっていた彼女とも別れ、どんなに美人な女子が寄ってこようと“好きな人がいる”と一途に早川を想ってきた。


だから、女子たちの間では、大樹が好きな女が誰なのか、いろんな噂が飛び交っているらしい。


その中に、早川の名前は全くない。


出るのは、美人で目立つ存在の女子ばかり。


早川は、決して目立つことがない小さい女の子。


教師のオレが言うのもなんだけど…。


女子というよりは“女の子”という言葉が似合うかわいらしい子だ。


敬語が使えて、お礼が言えて、礼儀作法がきちんとしていて…。


育ちのよさが全面に表れている。


今どき、こんな子がいるのかと思うくらい素直ないい子だ。


『もう、オレ、ホンット修学旅行が楽しみだし』


大樹が嬉しそうに笑う。


『それまでに仲良くなれるといいな』


普通の女子だったら、大樹のペースで話しかけられたら、すぐに仲良くなれるんだろうけど、早川は引くかもしれない。


大樹もそれを分かっているから、無理やり話しかけることはしなかった。


それくらい、大樹は早川のことが好きだ。


できることなら、叶えてやりたいと思う。