「……は?」

 「どう見ても、あの時あたしが見た葛岡の顔じゃないのよ。……実物は、もっとかっこよかったんだから」
 花火が打ち上げられているときの彼の顔は、もっと微妙な感情を表していて。見ているこっちまで思わず切なくなってしまうようで。
 そんな時間を閉じ込めたくて、こうして写真に残したというのに。
 「希実、」
 「 ――― っ! いいの、わかってるのっ! だけど、人間の脳は美化するのが得意なのよっ! しょうがないじゃないっ……」
 心のカメラ。その欠点のひとつは、頭の中で現像化するときに勝手に修正を施してくれることだ。

 思わず大声をあげたあたしに、茉莉香はビクッとすると、すぐにポンポンとあたしの背中を叩いた。
 「はいはい。わかってます。落ち着きなさいな」
 「それにさ、さっき茉莉香も言ったじゃん」
 背中のリズムに少し落ち着きながら、でも一度沸き起こった感情は収まりきらず、あたしは自分の思っていたことを口にしてしまった。
 「? 何? あたし何か気に障ること言った?」
 全く見に覚えがございません、と首を傾ける茉莉香に、あたしは恐る恐る顔を上げた。

 「……『葛岡の写真』って言った」

 「? それが何??」
 なんだ、そんなことか、と言う茉莉香に、あたしは本日2度目のとんでもない発言を聞いた気がした。
 「他人が見ても、この写真は『葛岡の写真』なんでしょ? 『後夜祭のときの写真』じゃないんだよね?」
 同じ写真でも、どう受け取られるかによって、微妙に意味が変わってくる。
 あたしの言葉に、ようやく言いたいことを理解してくれたのか、茉莉香が頷いた。
 「そういう意味か。……でもさ、それは、あたしが希実の想いを知ってるから『葛岡の写真』だって思っただけで、他の人から見れば『後夜祭のときの写真』でしかないよ」
 「……本当に?」
 念を押すと、茉莉香は僅かに視線を逸らした。
 「あ、ほら、希実自身が聞かれたら言えばいいじゃない、これは『後夜祭のときの写真』だって」
 (それが出来ないから、困ってるんだってば)
 「無理だよー。だって、あたしこの写真『葛岡の写真』として撮っちゃってるもん。それに、茉莉香だって思ったでしょ? 文化祭の写真にしちゃ出来過ぎだって」
 すると、茉莉香は今度こそ目に見えて視線を泳がせた。

 「………………確かに、うっかり撮影者の気持ちまで写しちゃってるように思います」
 観念したのか、茉莉香はそういうと、完全にお手上げのポーズをとる。

 心のカメラ。ふたつめの欠点は実際のカメラに気持ちを念写する機能が備わっていること。
 (普段よりはいい写真が撮れるのに、満足出来ないなんて……)
 微妙な気持ちを吐き出すかのように、あたしは深くため息をついた。

●写真って、たまに気持ちも写すよなぁと思います。