「でも、公ちゃんが結婚しちゃったら、きっとご近所の子の方があたしより仲良くなっちゃうんだろうなぁ」

 少し淋しそうにそう呟いて、絵里奈が立ち止まる。
 「あたしは平日仕事があるし、主婦を夕飯食べようか、なんて誘うことも出来なくなるし。知ってる? あの2人の新居のマンションって、一人暮らしの女子大学生が多いんだって。引越しの挨拶に行ったときに、随分なつかれたらしいよ」

 一歩先に足を進めていた俺は、首だけを後ろに向けた。
 面白くなさそうな声に、絵里奈も俺と似たような気持ちなのではないかと慰められる。

 「なんだよ、絵里奈の方が娘が離れていく母親みたいなこと言ってるじゃないか」
 ちょっとだけ嬉しくなって、先ほど言われたことを逆に言い返すと、絵里奈は少し怒った声で「違うでしょう?!」と返してきた。
 何をそんなに怒っているのだろうかと思っていると、絵里奈は呆れたように、大きくため息をつく。

 「英一が、あたしといる意味なくなるじゃない」

 (…………は?)
 あまりに間抜けな顔をしていたのだろう。絵里奈は目を細めて、怪訝そうな顔をする。
 「公子ちゃんの情報、あたしからじゃほとんど聞き出すこと出来なくなるよってこと。どうする? あたしと別れて、女子大生と付き合う?」
 (何を言っているのだろう。少なくとも、絵里奈の前では上手く演じていたはずだ。彼女のことを好きな自分を)
 あっけにとられている俺の前で、絵里奈は苦笑する。

 「好きな人に対しては、多少の差はあれど鋭くなるものなの。女って」

●欲張ると、何もかも失うのだろうか。それとも、方法がわるかったのだろうか。