もう、数人しか見ていないモニターをまた見上げる。
 そこに輝く、小さなオレンジ色の光。
 それが誰のものであるかを考えるまでもないのに、彼女でなかったらと願ってしまう。
 
 葵が、すべてを包み込む水のような存在だとしたら、彼女は風だ。
 亮太だけのために湧き出る泉の傍を、なかなか離れられない俺を別の場所へと誘うそよ風。
 それに何度助けられたことだろう。
 ……彼女が自分に好意を抱いていることを、利用している気持ちがないわけじゃなかった。
 自分の気持ちが彼女にないことを、彼女が理解しているということに、甘えている自覚もあった。
 
 けれど、それでもいいと思っていた。

 どれだけの自惚れがあったのだろう?
 葵の元に思いがあっても、葵の傍には亮太がいる。一生2人の仲を邪魔するつもりはない。
 だから、千花が自分を好きなのであれば、俺は一生千花の傍に居ても良いと思っていた。
 万が一、千花が別な人を好きになろうと、自分が好きなのは葵なのだから、ショックを受けることもないだろうと。
 『ざまーみろ』
 最後の瞬間、微笑んだ彼女の顔には、確かにそう書いてあった。

 (たぶん、あいつは葵を助け損ねたことに対してそう思ってたんだろう。けど)
 あの瞬間、強い焦燥感に襲われた。
 そして、それは段々と大きくなっている。

 「玲くん、葵ちゃんの傍に行かなくていいの?」
 モニターから目を離せずにいる俺に、絵里が歩み寄る。
 「……葵の傍には、亮太がいる」
 「好きな人が、別の人に支えられているのは辛い?」
 責める口調なのは、千花のことを思ってだろう。
 後ろで筒井が絵里のことをたしなめる。
 「少しくらい、罪悪感を感じてもらわなきゃ、あたしの気が治まらないのよ」
 怒鳴りださないのは、余程怒りを押し込めているのだろう。
 「罪悪感?」
 聞き返すと、絵里は俯いて拳を俺に向かって振り上げた。
 「絵里っ!」
 けれど、それは振り下ろされることなく、筒井の手で押さえられている。
 「なんで止めるの?!」
 「坂下の話がまだ終わってない」
 「? 終わったじゃない! だって、玲くん千花が居なくなったのに、罪悪感全然感じてないって!」
 「本当に何も感じてなかったら、さっさと葵さんのところに行くだろう?」
 その言葉に、不承不承といった感じで絵里の手が力を無くす。

 「なんだんだかわかんないんだよ。罪悪感なのか、喪失感なのか、絶望なのか」

 「……絶望?」
 まさか、と絵里が目を見開く。
 
 モニターの光が消えるまで、後どれくらいなのか。
 少なくとも、千花ほどの防御者でも2日持つか持たないかだろう。
 (風がなくなれば、俺は動くことすらできない)

●ショートショートなのでここまで。続きは気が向いたら書きます。