「新島!」
 切羽詰った高宮くんの声に、ビクッと身体を振るわせた後、おそるおそる後ろを振り返る。
 「なに?」
 「さっきの……『落ちれば良かったのに』って言ったことだけどっ」
 とても言いにくそうに。少し困ったような顔をして、高宮くんは言葉を続ける。
 「……そういう意味で言ったんじゃないんだ」
 (じゃぁ、どういう意味だったの?)
 「そういう意味にしか聞こえなかったよ?」
 「うん、普通に聞けば、そういう意味に取られても仕方ないと思うんだけど……」
 そこで言葉を切って、高宮くんは、階段の上の方にいるあたしを見上げた。

 「さっき。俺ここに居たんだよ」

 「え?」
 どういうことだかわかってないあたしにもう一度、
 「だから、新島が階段から落ちそうになってたとき、俺は新島のすぐ後ろに居たんだってば」

 新島が落ちても、すぐに支えられるところに。

 そう言うと、高宮くんは、ここまで言ったらもういいや、と、そのまま階段を上がってくる。
 「だから『落ちればよかったのに』っていうのは、そうなれば、新島と話すきかっけが出来るかなとか。……吊り橋の法則みたいに、新島が俺のこと好きだと錯覚してくれないかなとか、打算的なことを考えて言ったんであって、新島のことが嫌いだから言ったんじゃない」
 一歩一歩近づいてくる彼の言葉に呆然をしていると、ようやく隣にやってきた高宮くんは、留めの一言を口にした。

 「というわけだから、好きな人にだったら優しくしても問題ないと思うんだけど?」
 そう言われて、すぐに言葉が出なかったあたしを、誰が責められるだろうか。

●ベタなお話(まぁ、ほとんどそうだけど)