(具合が悪そうな人を、放っておける人じゃないのに)
声をかけられてから思い出しても、もう遅い。
何故か名前を知られていることに、頭のどこかで驚きながら、あたしは正直に話した。

浮遊感恐怖症で、足もとが揺れているのが耐えられないこと。
大丈夫かと思って(ここらへんはちょっと脚色)歩き出したものの、揺れが伝わって、気分が悪くなってしまったこと。
それと、揺れが収まればすぐに治るから、大丈夫だと。

「それは……大変だな」
(ああ、やっぱり呆れてるよ)
そりゃそうだ。それほど揺れがダメなら、歩道橋を通らなければいい話だもの。
バカだなぁと思いながら、さっさと岸田君が歩き出してくれるのを待ってたのだけど。
「? ……岸田君?」
いつまで経っても歩き出す気配のない彼に、声をかける。
「何?」
「あたし、大丈夫だから、いいよ? 家に帰る途中でしょ?」
いいから、行って。
そう言うと、岸田君は困った顔をして、一言。
「行ってもいいんだけどさ」

―――― 俺が歩いたら、橋揺れるし。そしたら、黒川辛くない?

辛いけど。それは、確かに辛いけど。
「でも、岸田君の足止めさせちゃう方が、辛いから」
誰も動かないことで、少し収まった揺れに少し落ち着いて顔を上げると、岸田君は更に困った顔をしていた。

「俺は、足止めされることより、黒川が辛そうな方が嫌なんだけど……」

進むことも、戻ることも出来ない吊り橋のまんなかで。
あたしは、どうしようもなくなった。

●実は、両想いな2人。