頭はパニックで、心臓もドキドキどころかバクバクしていたけれど、それを必死で隠して、あたしは一歩進めた足を傍からみれば普通に歩いているように進める。
本当は、この歩道橋を駆け下りて一本先の横断歩道まで走りたい気分だった。けど、きっと向こうからもあたしの姿は見えているだろうし。岸田君は目がいいから(この前、廊下で両目とも1.5あるんだって自慢してたから覚えてる)あたしの名前はわからなくても、反対側にいる同じ学校の制服の女子高校生が、見覚えのある顔をしいてることくらいはわかるだろうし。それだと、まるで避けたような印象を与えるのは嫌だと思った。
 
意を決して一歩進むと、歩道橋の上にやってきた岸田君もこちらに向かって歩いてくる。
…………予想外のことが起きたのは、そのときだった。

(……き、気持ち悪い)

あたしの歩くテンポと、岸田君の歩くテンポが違うせいだろう。
足を下ろすタイミングを見計らったかのように、足の裏に揺れが走る。
初めからパニックになっていたならとにかく、揺れを感じてたせいか、いまいち感覚をなくすことが出来ずに、丁度真ん中の辺りで、思わず立ち止まった。……それがいけなかった。

(! ……?!)

止まったことで、当たり前のことだけど、より揺れを感じてしまって、しゃがみこむ。
(踏んだり蹴ったり……)
「揺れ」なんかに弱い自分を嘆きながら、とりあえず顔は知ってるけど、ろくに知りもしない同じ学校の子が居るなぁと思われてもいいから通り過ぎる彼を待つ。
岸田君が、向こうに行けば、今よりは少し揺れが収まるだろう。
それから、全力疾走で向こう側に行けば良い。
そんなことを考えていたあたしは、すっかり思考力というものが落ちていた。
だから。うっかり、彼の性格を忘れてしまっていたのだ。

「……黒川? どうした??」