「ちょっちょっとまて!」


背後から焦った低い声が聞こえてきた。本気で私が見捨てようとしたことを察知したのだろう。


「………なによ?」


最後の情けで振り返ってやる。


彼は右に体を傾けたまま、頬をなでていた。声にならない声を上げ、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべている。


「そっその………マジで手伝ってくれねぇか」


またたく間に、男は塩らしい声音を出して私に懇願した。


本当に困っているらしい。


「………仕方ないわねぇ」


私は困っている人を見かけてスルーできる女じゃない。


特別に手伝ってあげようじゃないか。


そう告げると、彼は明らかにホッとした空気を漂わせた。