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「羽田野さん」


生徒玄関から出た瞬間、またもや名前を呼ばれた。


「市橋君」


ユニフォーム姿で待っていたらしい彼は、またもや直立だった。


「こ、この前の返事、聞かせてもらいたくて」


「…あ」


そういえば返事をしていない。
失礼だが、自分のことでいっぱいで忘れていた。


「…えと…」


忘れていたため、こう真っ正面から向かってこられると少し躊躇ってしまう。
真っ直ぐすぎて、歪んだあたし的には罪悪感にさいなまれるのだ。


「…茗子、先行ってるね。
自転車とってきて校門にいるから」


「え」


玲央を見ると、微笑んで手首を離された。
一気に体温の下がるあたしの右手。

どうして?
いつもならこういう時、「僕の」とか言って引っ張ってくくせに。
どうしてそんな簡単に手を離すの?
どうして―…



「玲央、待って」



あたしは玲央の手を掴み返した。



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